サイエンスとサピエンス

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民族の記憶の変容

 ヒトの記憶は「書類キャビネットに大切に保管された堅固なファイル」ではなく、「事実と空想の入り混じった創造的産物だ」と喝破したのは米国のエリザベス・ロフタス博士だ。

 目撃証言がいかに変化してしまうか、周囲からの誘導尋問などで見ていなかったものを見たつもりになってしまうかをロフタスは明らかにした。
 その余波として、幼少時代の虐待、性的トラウマや悪魔崇拝の生け贄などのような患者の「体験」が精神分析医のカウンセリングによる誘導の結果が大多数であることも知れわたることになる。

 個人の記憶がいかに変化するかはさておいて、民族的記憶障害もあるのではないかと最近、思うようになってきた。そのような造られた偽史の事例をボブスホームは『創られた伝統』という論文集成で取り上げている。

 歴史的な事実を直視できない民族が、偽りの「記憶」である偽史を紡ぎ出すというのはありそうなことではないだろうか?
 ナチス時代のドイツが良い例かもしれない。
 ナチス時代のドイツ民族はローゼンベルグなどによる幻想的アーリア神話に自己陶酔した。さらにはユダヤ人という裏切り者をでっちあげた。第一次世界大戦の敗北も大恐慌や不景気もすべてユダヤ人の陰謀にされた。
 このように偽の記憶は突然のように国民の精神を乗っ取る。
 隣国の半島の大衆心理を語る場合、民族的な記憶障害あるいは「事実と空想の入り混じった創造的産物だ」を生み出しているのではないだろうか?
 日帝による徹底的な差別と搾取、従軍慰安婦のような強制拉致と強制労働がまんべんなく半島の人民を貧困と悲惨のどん底に突き落し、朝鮮民族はすべて塗炭の苦しみを舐めた。五四独立運動は弾圧され、朝鮮民族は差別され、すべての収穫と資源が日本に持ち去られた。
 とまあ、こんな感じであろう。
 帝国主義支配下では労働者や農民が絞り上げられたのは朝鮮民族だけはない。日本の労働者や農民も同じだ。それを戦前の大日本帝国のせいにするのは勝手かもしれない。
  だが、それは2つの点で可笑しい。
  1)帝国主義の害悪は万国共通であった。自民族だけが被害者であるのではない。
  2)その責任主体であった大日本帝国は敗戦により崩壊した。今の政体は別個のものといえる。

 他の帝国主義統治の被害者はどうしているだろうか?
 フィリピンにせよ、ベトナムにせよ、インドネシアにせよ、東南アジアのどこであろうとかつての帝国主義的支配者であった欧米諸国の政体に反省を迫っている国家はどこにもない。
それに、彼らの統治に比べれば、大日本帝国の統治は差別的ではなかった。水道や河川の整備、電力網や鉄道の普及を推進しただけでなく、重工業を半島において発展させた。
 衛生面栄養面からし李朝より格段の改良があった。人口増大がその例であろう。
 閑話休題。過去の負の側面だけをとりあげて、その改悛だけにいつまでも固執するのは偽りの記憶に基づく世論操作でしかない。

 ではどのような民族的なトラウマがかの民族を偽史に走らせたのだろうか?
第二次世界大戦後の米国の占領統治と朝鮮戦争、それにその結果としての分断だと推測する。

抑圧された記憶の神話―偽りの性的虐待の記憶をめぐって

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創られた伝統 (文化人類学叢書)

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